はじめに
前回はC2PAの基本概念を解説しました。今回は、2025年現在の実装状況を見ていきます。C2PAは仕様策定の段階から、実際の製品・サービスへの実装フェーズに移行しつつあります。
カメラメーカーの対応状況
対応カメラ一覧(2025年時点)
| メーカー | 機種 | 対応時期 | 備考 | |
|---|---|---|---|---|
| Leica | M11-P | 2023年10月 | 世界初のC2PA対応カメラ | |
| Sony | α1, α7S III, α7 IV, α9 III | 2024年3月〜 | ファームウェアアップデートで対応 | |
| Nikon | Z6III | 2025年8月 | 2024年10月に開発発表、報道機関向けに先行提供後、ファームウェアVer.2.00で対応 | |
| Fujifilm | GFX100S II | 2024年5月発表 | C2PA/CAI加入を発表、ファームウェアで順次対応 | |
| Pixel 10 | 2025年9月 | スマートフォン初のネイティブ対応 |
注目ポイント:スマートフォンへの展開
2025年9月に発表されたGoogle Pixel 10は、OSおよびハードウェアレベル(Tensor G5 + Titan M2チップ)でC2PAをネイティブサポートした初のスマートフォンです。C2PA Conformance ProgramのAssurance Level 2(最高レベル)を達成しており、専用のカメラ機材を持たない一般ユーザーでも、日常の写真撮影でC2PA署名付きの画像を生成できるようになりました。
一方、Samsung Galaxy S25もC2PA対応のAndroid端末として2025年2月に発売されましたが、こちらはSamsungのAI編集機能(Generative Edit, Sketch to Image等)を使った場合にのみC2PAメタデータが付与される仕様で、撮影時点での署名は行われません。この違いは重要です。
プラットフォームの対応状況
主要プラットフォームの実装
| プラットフォーム | 対応内容 | 開始時期 | |
|---|---|---|---|
| YouTube | C2PA対応カメラで撮影された動画に「Captured with a camera」ラベルを自動表示 | 2024年10月 | |
| TikTok | C2PA Content Credentials技術の導入、AI生成コンテンツの自動ラベリング | 2024年5月 | |
| C2PA対応、Content Credentials表示 | 2023年11月発表、2024年5月正式対応 | ||
| Meta(Facebook/Instagram) | 運営委員会参加、AI生成コンテンツへの「Made with AI」ラベル導入など実装進行中 | - |
YouTubeの「Captured with a camera」表示
YouTubeでは、以下の条件を満たす動画に対して「Captured with a camera(カメラで撮影)」というラベルが表示されます。
- C2PA v2.1以上に対応したカメラで撮影されている
- 編集プロセスを通じて来歴情報が保持されている
- 生成AIによる改変がされていない
これは視聴者に対して「この動画はAI生成ではなく、実際のカメラで撮影されたものです」という情報を提供する仕組みです。
AIサービスの対応状況
画像・動画生成AI
| サービス | 対応内容 | |
|---|---|---|
| OpenAI DALL-E 3 / Bing Image Creator | 生成画像に自動でC2PAメタデータを付与(2024年2月〜) | |
| Adobe Firefly | Content Credentials付与 | |
| OpenAI Sora | 動画生成AIにもContent Credentialsを付与(OpenAIは2024年5月にC2PA運営委員会に参加) |
AIサービスがC2PAに対応することで、「この画像はAIで生成されました」という情報が来歴に記録されます。ただし、これはそのAIサービスが正直に申告している場合に限ります。
ソフトウェア
| ソフトウェア | 対応内容 | |
|---|---|---|
| Adobe Photoshop | 編集時にC2PA来歴を選択的に付与可能 | |
| Adobe Lightroom | 同上 | |
| Adobe Premiere Pro | 動画編集でのC2PA対応 |
Adobe製品では、書き出し時に「Content Credentialsを含める」オプションを選択することで、編集履歴を含む来歴情報を付与できます。
技術仕様の進化
バージョンの推移
| バージョン | 公開時期 | 主な変更点 | |
|---|---|---|---|
| 1.0 | 2022年1月 | 初版リリース | |
| 2.0 | 2024年1月 | 大幅改訂。「人間や組織としてのアクター」への言及を削除 | |
| 2.1 | 2024年9月 | セキュリティと信頼性の向上 | |
| 2.2 | 2025年5月 | 最新版 |
ISO標準化
C2PA仕様はISO国際標準として採用される見込みで、W3Cでもブラウザレベルでの採用が検討されています。将来的にはブラウザがContent Credentialsを表示する標準UIを持つ可能性があります。
適合性プログラム(Conformance Program)
2025年6月、C2PAは「適合性プログラム」を発表しました。これは、C2PA対応製品が技術仕様とセキュリティ要件を満たしているかを認証する仕組みです。
プログラムの主要要素:
- C2PAトラストリスト:信頼できる認証局のリスト
- 証明書ポリシー:証明書発行のルール
- 適合製品リスト:認証を受けた製品の公開リスト
報道機関での活用事例
ソニーの「真正性カメラソリューション」
ソニーは報道機関向けに、C2PA規格と独自の3D深度情報を組み合わせた「真正性カメラソリューション」を提供しています。
特徴:
- カメラ内でリアルタイムにデジタル署名を埋め込み
- 3D深度データにより「実物を撮影したか、画面を撮影したか」を検証可能
- 動画にも対応(2025年10月〜、業界初)。対応カメラはα1 II、α9 III、FX3、FX30、PXW-Z300
AP通信・BBCとの実証実験
ソニーとAP通信は、報道写真ワークフローでのC2PA活用に関する大規模な実証実験を2023年10月に完了し、同年11月に発表しています。また、BBCの研究開発部門とも協力し、動画コンテンツの真正性検証に関する実証実験を実施しています。
日本国内での動き
NTTドコモ・ドコモテクノロジ
NTTドコモグループは、C2PAに関する技術解説記事を2023年から継続的に発信しており、2024年・2025年とC2PA動向の年次レポートを公開するなど、日本における技術普及に貢献しています。
サイバートラスト
電子認証サービスを手がけるサイバートラストは、2023年11月にC2PAのGeneralメンバーとして加入(2024年2月に正式発表)。電子署名・認証の専門企業としての知見を活かし、C2PA署名用の「iTrust C2PA用証明書」の提供など、国内におけるC2PA普及の基盤整備を進めています。
TOPPAN
TOPPANデジタルは、2024年10月から平将明衆議院議員の公式サイトで、画像の真正性を証明する実証実験を実施しています。電子透かしと来歴情報を活用した改ざん防止技術の検証に取り組んでいます。
普及に向けた課題
1. メタデータ保持の問題
多くのSNSやCMS、CDNは、画像アップロード時にメタデータを自動的に削除します。C2PA署名もこの影響を受けるため、配信パイプライン全体での対応が必要です。
2. 一般消費者の認知度
「Content Credentials」や「C2PA」という言葉を知っている一般消費者はまだ少数です。crマークを見ても、その意味を理解できる人は限られています。
3. コストとワークフロー
C2PA対応カメラは一般的に高価格帯のプロ機が中心です。また、編集ワークフロー全体でC2PA署名を維持するには、対応ソフトウェアの使用が必要です。
まとめ:第2回のポイント
- カメラメーカーはプロ機を中心に対応が進み、2025年にはスマートフォンにも展開
- YouTube、TikTok、LinkedInなど主要プラットフォームが対応開始
- OpenAI、Adobeなど主要AIサービスも対応し、「AI生成」であることを明示
- ISO標準化、W3Cでのブラウザ対応検討など、業界標準としての地位を確立しつつある
次回は、C2PAのセキュリティと脆弱性について解説します。「改ざんは可能なのか?」という疑問に、セキュリティ研究者の検証結果を交えてお答えします。
参考資料
この記事をシェアする