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エージェンティックコマース 2026.02.28 [AIが買い物をする時代 Vol.1]

AIが買い物をする時代 ― 第1回:エージェンティックコマースとは何か

Stripe年次レターが示す「エージェンティックコマース」の全体像を解説。ChatGPTやGoogle AI Modeで購入が完結する時代、EC事業者が知るべき5段階モデルと今起きている現実をまとめました。

AIが買い物をする時代 ― 第1回:エージェンティックコマースとは何か

Stripe 2026 Annual Letterから読み解くECの未来

2026年2月24日、決済インフラ企業Stripeの共同創業者であるPatrick CollisonとJohn Collisonが、毎年恒例の年次レターを公開しました。Stripeの年次レターは、シリコンバレーで最も注目される年次書簡のひとつです。テクノロジー業界の構造変化を独自の視点で切り取り、次の10年のビジネスの方向性を示唆してきた実績があるからです。

今年のレターで最も多くの紙幅が割かれたテーマが「エージェンティックコマース(Agentic Commerce)」でした。AIエージェントが人間に代わって商品を探し、比較し、購入する。そんな世界が、もはやSFでも未来予測でもなく、2026年2月の時点ですでに実装され、動き始めているという事実。

本シリーズでは全4回にわたり、Stripeの年次レターを起点に、この変化の全体像と、日本のEC事業者が今からどう備えるべきかを解説していきます。第1回となる本記事では、エージェンティックコマースの基本概念、Stripeが提示した「5段階モデル」、そして今まさに起きている現実をお伝えします。

1.9兆ドル、世界GDPの1.6%を処理する企業が見ている景色

エージェンティックコマースの話に入る前に、Stripeという企業の規模感を把握しておく必要があります。レターによれば、2025年にStripeのネットワークを通過した決済総額は1.9兆ドル(約285兆円)。前年比34%の成長で、これは世界GDPの約1.6%に相当します。500万社以上の企業がStripeの決済インフラを利用しており、ShopifyからAmazon、Google、OpenAIに至るまで、インターネット経済の中枢を担っています。

つまりStripeは、世界のオンライン商取引の最前線で、どこよりもリアルタイムにデータを見ている企業です。そのStripeが「エージェンティックコマースは90年代半ばのインターネット登場に匹敵する転換点だ」と明言している。この重みを、まず理解しておきたいところです。

レターの冒頭で引用されているデータも示唆的です。米国上場企業の中で収益性が高い上位3分の1が時価総額の3分の2を占め、1963年のデータ開始以来最高水準に達しています。S&P 500の時価総額上位10%が利益の約59%を占めるなど、近年に比べても集中度が顕著に高まっている。米国小売においては、EC売上がインフレ調整後に3年間で30%成長した一方、実店舗は5%にとどまる。ソフトウェア・コンピュータ・データセンターへの投資が2025年の米GDP成長の約半分を占めている。

テクノロジーを使いこなせる企業とそうでない企業の格差が、かつての数十年単位ではなく、数年単位で決定的になりつつある ―― レターはこの「ソーティング・マシン(仕分け機)」の加速を強調した上で、その最大の変数としてエージェンティックコマースを提示しています。

「エージェンティックコマース」とは何か

端的に言えば、AIエージェントが人間に代わって商品の発見・評価・購入を行うことです。

これまでのEC体験を思い出してみてください。Googleで検索し、複数のサイトを開き、商品を比較し、カートに入れ、配送先を入力し、クレジットカード番号を打ち込み、購入ボタンを押す。この一連のプロセスを、すべて人間が手動で行ってきました。

エージェンティックコマースは、このプロセスの一部または全部を、AIエージェントに委ねる概念です。ChatGPTに「来週のキャンプに必要な道具を揃えて」と伝えれば、天候・参加人数・予算・過去の購入履歴を踏まえた提案が返ってきて、承認ボタンひとつで購入が完了する。そんな世界です。

ただし、「AIが全部やってくれる」という単純な話ではありません。現実には段階があり、今どこにいるのか、次に何が来るのかを正確に理解することが重要です。そこでStripeが今回のレターで提示したのが、自動運転のレベル分けに倣った「5段階モデル」です。

Stripeが描くエージェンティックコマースの5段階

Level 1:Webフォームの排除

最も初歩的な段階です。ユーザーは何を買うかを自分で決めますが、購入手続きだけをAIエージェントが代行します。

具体的には、配送先住所の入力、クレジットカード情報の入力、購入ボタンのクリックといった「作業」をAIが処理する。ECサイトのチェックアウトフォームに毎回同じ情報を入力する手間がなくなる段階です。

意思決定は人間、実行が機械。シンプルですが、これだけでもEC体験の摩擦は大幅に減ります。

ここから質的な変化が始まります。商品名やスペックではなく、状況を自然言語で伝えてAIが推論する段階です。

Stripeはレターの中で、こんな例を挙げています。

「シカゴに住む3年生の男の子の新学期用品を探している。かゆくならない服がいい。KPop Demon Huntersが好き」

従来のECなら「子供服 120cm 綿100% キャラクター」と検索して、無数の結果を自分でフィルタリングする必要がありました。Level 2では、AIがシカゴの9月の気候、3年生の標準的なサイズ、綿やリネンなどの肌に優しい素材、KPop Demon Huntersの公式グッズ、レビューの評価、配送可能日を横断的に分析し、最適な候補を提示します。

キーワード検索から、状況と意図に基づく推論へ。検索体験の根本的な転換です。

Level 3:パーシステンス(記憶の継続)

AIエージェントが過去の会話や購入履歴を記憶し、毎回「自分を紹介し直す」必要がなくなる段階です。

前回買った服のサイズ、好きなブランド、アレルギー情報、予算感。これらをAIが学習済みなので、「息子の通学服を探して」と言えば、サイズも好みも素材の制約も踏まえた提案が即座に出てきます。選択肢はすでにパーソナライズされていますが、最終判断はまだ人間が行います。

Level 4:委任(Delegation)

多くの人が「エージェンティックコマース」と聞いて思い浮かべるのが、この段階でしょう。

「新学期の買い物を済ませて。予算は400ドル以内で」

これだけ伝えれば、検索・評価・購入・配送手配のすべてをAIエージェントが自律的に完了します。人間は結果を確認するだけ。必要に応じて事前にルールを設定しておくこともできます(「このブランドは除外」「オーガニック素材のみ」「3日以内に届くものだけ」など)。

Level 5:先読み(Anticipation)

プロンプトすら不要になる最終段階です。AIが学校のカレンダー、子供の成長記録、家計の予算、過去の購入パターンを把握していて、新学期が近づくと必要なものを自動で発注し、届いたら通知だけが来る。

Stripeのレターには、この段階を「ヘルプを求めなくてもヘルプが届く世界」と表現する一節があります。

今、どこにいるのか ― 「Level 1と2の境界」という現実

Stripeは明確に述べています。「今日、業界はLevel 1と2の境界にいる」 と。

この「境界にいる」という表現が絶妙なのは、Level 1がすでに実装段階に入り、Level 2も部分的に動き始めているという、まさに今この瞬間の状況を正確に捉えているからです。具体的に何が起きているか、2026年2月時点の事実を見ていきましょう。

ChatGPT:約9億人のユーザーがショッピングできるプラットフォームに

OpenAIは2025年9月にChatGPT内で「Instant Checkout」を開始し、2026年2月16日に「Buy it in ChatGPT」として全米のChatGPTユーザー(無料プラン含む)に拡大しました。Etsy出品者の商品はすでにライブで購入可能、Shopifyマーチャント100万店以上(Glossier、SKIMS、Spanx、Vuoriなど)が順次オンボーディング中です。Walmart、Target、Instacart、DoorDashも統合済みまたは統合予定。

ChatGPTの週間アクティブユーザーは約9億人(2026年2月27日時点)、ショッピング関連のクエリは1日推定5,000万件。これらすべてが、ECサイトを訪問せずにチャット内で購入完了できる導線になっています。

さらに2025年11月にはShopping Research機能もローンチ。「200ドル以下のエスプレッソマシン」と聞けば、複数の商品を比較するバイヤーズガイドが生成され、価格・スペック・レビュー・トレードオフまでまとめてくれます。これはまさにLevel 2の入り口です。

Google:AI Mode検索からそのまま購入可能に

Googleも2026年1月11日、全米小売業協会(NRF)のカンファレンスでUniversal Commerce Protocol(UCP)を発表しました。Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartとの共同開発で、Visa、Mastercard、American Express、Adyenなど20社以上がエンドーサーに名を連ねています。

2026年2月11日には、Google検索のAI ModeとGeminiアプリ内でEtsy・Wayfairの商品が購入可能になりました。検索結果のAI応答内に「Buy」ボタンが直接表示され、Googleのインターフェースを離れることなくチェックアウトが完了します。決済はGoogle Payで、Google Walletに保存された情報が使われます。

注目すべきは現時点ではプラットフォーム手数料が発生しない見込みという点です。ChatGPT経由のInstant CheckoutではOpenAIが4%のサービスフィーを徴収しますが、GoogleのUCP経由では現時点でプラットフォームフィーがかかりません(将来的に変更される可能性はあります)。これは戦略的な価格設定であり、Google検索のAIモード上でのコマースを一気に普及させる意図が明確です。

Microsoft:Copilot Checkoutも始動

2026年1月のNRFカンファレンスでは、Microsoftも新たなAIショッピング体験を発表しました。Stripeとの提携により、Microsoft CopilotユーザーがEtsy、Urban Outfitters、Anthropologieなどから直接チャット内で購入できるCopilot Checkoutの展開が始まっています。

数字で見るインパクト

このシフトがどれほどのスケールで起きているか、各種調査の数字をまとめます。

Boston Consulting Group(BCG)の調査では、消費者の81%がエージェンティックコマースツールの利用に前向きで、影響を受ける潜在的な支出規模は1.3兆ドルに達するとされています。McKinseyは2030年までに米国リテール市場でエージェンティックコマースが9,000億〜1兆ドル、グローバルでは3〜5兆ドルの売上を生むと予測しています。Morgan StanleyのAlphaWise調査では、米国でのChatGPTの利用率が45%に達し、AIエージェントがEC市場の10〜20%(1,900億〜3,850億ドル)を獲得するとの予測です。

そしてAIアシスタントからリテールサイトへの参照トラフィックは、2024年から2025年にかけて1,200%増加しました。

なぜ「90年代半ばのインターネット」に例えられるのか

Stripeのレターは、現在のエージェンティックコマースの状況を「90年代半ばのインターネット」に重ねています。この比喩は大げさに聞こえるかもしれませんが、構造的にはかなり正確です。

1990年代半ば、何が起きたかを振り返ります。Netscapeがブラウザを普及させ、HTTP/HTMLというプロトコルが標準化され、URLとDNSという「住所体系」が確立された。この3つのピースが揃ったことで、誰もがウェブサイトを公開し、誰もがそれにアクセスできるようになりました。重要なのは、これらが特定の企業の独占技術ではなくオープンスタンダードだったことです。

2026年の今、同じ構造が繰り返されています。

ChatGPT、Gemini、CopilotといったAIプラットフォームがブラウザの役割を果たし、ACP(Agentic Commerce Protocol)やUCP(Universal Commerce Protocol)といったオープンプロトコルがHTTPに相当する共通言語を提供し、Stripe Agentic Commerce Suiteのような統合基盤が、事業者とAIエージェントを接続するインフラになる。

Stripeのレターが強調しているのは、「将来の成功が、普遍的な相互運用性(universal interoperability)にかかっている稀有な瞬間」だということです。90年代にウェブが爆発的に普及したのは、Internet Explorerでも Netscapeでも同じサイトが見られたから。同じように、ChatGPTでもGeminiでもCopilotでも、同じ商品が発見・購入できる仕組みが今まさに作られつつあるのです。

この比喩が示唆するもうひとつの重要な点は、「ウェブサイトを持たない企業」が90年代後半にどうなったかを思い出してほしい、ということです。当時、「うちはインターネットなんて関係ない」と言っていた企業の多くが、その後の10年で市場から姿を消しました。今の「エージェンティックコマースなんてまだ先の話」という認識は、当時の「インターネットは一過性のブーム」という認識と構造的に同じリスクを孕んでいます。

従来のEC体験に何が起きるのか

ここで最も重要な問いに向き合いましょう。「ECサイトを訪問して、商品を選んで、カートに入れて、レジに進む」というユーザー体験は、今後どうなるのか。

結論から言えば、消滅はしません。しかし、主流ではなくなり始める可能性があります。

ChatGPTの約9億人の週間ユーザーのうち、毎日5,000万件のショッピング関連クエリが発生している。そのうちの何割かは、すでにECサイトを訪問することなくチャット内で購入を完了している。Google検索のAI Modeからも、サイトを経由せずに購入完了できる導線が動いている。

これは、2010年代にスマートフォンが「外出先からでも買い物ができる」という体験を生んだのと同じレベルの構造的シフトです。あの時、「PCで買い物する人がいなくなる」とは言いませんでしたが、購買行動の重心は確実にモバイルに移動しました。同じように、AIエージェント経由の購買が増えることで、ECサイトの直接訪問は相対的に減少していく可能性が高い。

EC事業者にとってこれが意味するのは、「サイトのデザインや使いやすさ」だけでなく、「AIエージェントから商品情報がどう見えるか」が売上を左右する時代が来るということです。

どれだけ美しいサイトを作っても、AIエージェントが商品情報を構造化データとして読み取れなければ、推薦候補にすら入りません。どれだけSEOを頑張っても、AIエージェントへの情報提供がなければ、新しいチャネルの売上はゼロです。

「まだ早い」は、もう手遅れかもしれない

この話を聞いて「まだLevel 1-2でしょ? Level 4なんてまだ先の話だ」と思う方もいるかもしれません。確かにLevel 4の本格的な委任が普及するのは2028年以降と見られています。

しかし、Level 1-2の段階ですでに、EC事業者のビジネスに影響が出始めています。

ChatGPTのInstant CheckoutでEtsy出品者の売上がどうなっているか。Google AI Modeの「Buy」ボタンからWayfairの商品が購入されているとき、そのトラフィックはWayfairのサイトアクセス数にはカウントされません。つまり、従来のGA4やサーチコンソールでは見えない場所で、すでに売上の移動が始まっているのです。

さらに、Amazonの動きも見逃せません。約6億の商品リスティングを持つAmazonは、OpenAIのクローラーをrobots.txtでブロックし、ChatGPTの検索結果からAmazon上の商品情報を遮断しています。一方で独自の「Buy for Me」機能を開発し、Amazon以外の小売サイトからの購入をAmazonアプリ内で完結させる仕組みを作っています。Amazonがこれほど迅速に防衛策を講じているということ自体が、エージェンティックコマースの脅威をAmazonが本気で認識している証拠です。

逆に言えば、ACP/UCPのようなオープンプロトコルは、Amazonのマーケットプレイス手数料(8〜45%、大半のカテゴリは8〜15%)から脱却する構造的な手段になりえます。ChatGPT経由は合計約9%、Google AI Mode経由は現時点でプラットフォームフィーゼロ。D2C(Direct to Consumer)ブランドにとっては、AIエージェント経由の販売チャネルがAmazon依存から脱却する現実的な選択肢になりつつあります。

日本のEC事業者は、今何を考えるべきか

ここまでの話の多くは米国市場の事例です。ChatGPTのInstant Checkoutもまだ米国限定。日本市場への展開時期は未定です。では、日本のEC事業者は「まだ関係ない」のでしょうか?

答えはNOです。理由は3つあります。

第一に、プロトコルの整備は今のうちに始める必要があります。 ChatGPT Instant Checkoutが日本に来てから対応を始めたのでは遅い。商品データの構造化、Schema.orgマークアップの実装、Google Merchant Centerのフィード最適化、APIの整備。これらは数週間では完了しません。米国の先行事例を参考に、今から準備を始めた事業者が、日本展開時にファーストムーバーの優位を得ます。

第二に、ChatGPTのShopping Research機能はすでにグローバルで利用可能です。 Instant Checkoutは米国限定ですが、商品の検索・比較・推薦機能はグローバルに展開されています。日本のユーザーも、ChatGPTに商品の相談をしている。そのとき、あなたの商品が推薦候補に入るかどうかは、すでに商品データの品質で決まっています。

第三に、2026年のロードマップに国際展開が含まれています。 OpenAIはInstant Checkoutのロードマップにマルチアイテムカート対応と国際展開を明記しています。日本はChatGPTの利用率が高い市場であり、展開の優先度は低くないと推測されます。

次回予告:ACP vs UCP ― 2大プロトコルの現在地

第1回では、エージェンティックコマースの基本概念と、今すでに起きている現実をお伝えしました。

第2回では、この新しい世界を支える技術的な「共通言語」 ―― OpenAI+Stripeが推進するACP(Agentic Commerce Protocol)とGoogle+Shopifyが推進するUCP(Universal Commerce Protocol)の2大プロトコルについて、その仕組み、手数料構造、対応プラットフォーム、そしてAmazonの防衛策まで、具体的に解説します。

参考情報
山下 太郎

山下 太郎

代表取締役 / CEO

2000年、Webデザイナーとしてこの世界に飛び込み、フリーランスを経て2007年に株式会社アンタイプを創業。AI時代の到来とともに、効率だけを追うAI活用に違和感を覚えながら、それでも最前線でツールを使い続ける。企業のWebとコミュニケーションを設計する仕事を通じて、「人間らしさとは何か」を問い直す視点を発信し続けている。

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